いつでもどこでも、誰もがネットに接続する環境下では、コーポレートサイトも戦略的に構築する態度が不可欠です。最近はネット上のサービスやプラットフォームが充実し、リソースの薄い小規模事業者でも低コストで、簡単にwebサイトを構築して公開することができるようになりました。
しかし、コーポレートサイトは開設してからが勝負です。コミュニケートしたい対象者の来訪を促し、届けたい情報を的確なタイミングで提供し、商品・サービスの制約に結び付けるためにはまずユーザーである相手を十分理解することが大切です。
目次
誰に向けての情報発信なのか、意識していますか?
サイトの基本的な対象者は「お客様」
あなたの会社のwebサイトを検索、閲覧しているのはどんな人たちだと思いますか?
ほぼ間違いなく、「それはもちろんお客さまだよ」という答えが返ってくるでしょう。企業が運営するwebサイトである以上、その目的はビジネス機会の拡大にあり、そのほとんどが購入や見積もり依頼など、何らかのCV(コンバージョン=成約)獲得を目指して構築されています。
そのために多くの企業や店舗のwebサイトが、ビジネスの対象者であるお客さまの目をどのように惹きつけ、より深く、長く滞留してもらえるかを考え、日々苦心しているのです。
二極分化するコーポレートサイト
デジタルマーケティングが進化・発達している現在、企業のwebサイトは大きく二極分化しつつあります。ひとつは、自社のユーザーやステークホルダーを詳細に分析・設定して、計画的に設計構築を行ったwebサイトです。こうしたサイトでは、どのような人々が自分たちの商品・サービスを必要としており、問題解決のためにどんなキーワードを用いて検索し、どんな経路で自社のサイトに流入し、その結果どのような態度・行動の変容を期待するのか、という流れをしっかり把握しています。
一方、ステークホルダー属性をあまり意識しない、あるいはわかっていても諸々の理由からそこまでweb構築にリソースが割けない企業も存在します。中小企業や小規模事業者の中には、会社案内のデジタル版のような、基本的な概要のみを掲載したコーポレートサイトを運営しているところも少なくありません。しかしベーシックな情報しか掲載していないwebサイトが、検索結果の上位に表示されてユーザーの目に留まる、ということはほぼ期待できません。
自社のステークホルダー属性を理解したうえで戦略的にwebを活用する企業と、あまり意識せずに一方的にコンテンツを発信する企業とでは、やがて大きな差が生じます。そこでこの記事では、webサイト構築にあたって意識すべきユーザー=ステークホルダーの属性について、解説していきます。
「お客さま」にもさまざまな属性がある
お客さまは一律でない
記事の冒頭で、webサイトを検索し閲覧するのは「お客さま」だ、という話をしました。もちろんそれはその通りで、決して間違っていません。しかしお客さまといっても、実はその姿は一律ではないのです。一人ひとり皆顔が違っているように、そのお客さまと企業との関係性、結びつきの状況はすべて異なります。自社との結びつきが形成されたきっかけ、商品・サービスの利用状況や満足度、利用頻度、継続意向など、皆それぞれに差異があります。
顧客像ごとで異なるステイタス
顧客像を簡単に分類すると、大きく「既存顧客」と、まだ顧客になっていない「未認知層(自社の商品・サービスを知らない層)」に分けられます。さらに既存顧客には「顕在顧客(利用頻度の高い顧客)」「潜在顧客(利用状況改善の可能性がある顧客)」があり、それぞれ結びつきの強さによって「ロイヤル顧客」「一般顧客」「疎遠顧客」、および「離反顧客」「認知しているが未購買の層」など異なるステイタスがあります。
ステイタスが違えば、必要なアプローチもまた異なってきます。自社の商品・サービスをよく知っていただいているお客さまに向けて発信する情報と、まったく知らない人々や長い期間疎遠になっている層に対して発信する情報は当然変わってしかるべきです。
態度変容のキーとなる「タッチポイント」
デジタルマーケティングには、「ペルソナ設定」「カスタマージャーニー」という考え方があります。対象とするユーザーを、具体的な「年齢、性別、職業、家族構成、趣味嗜好」を持つ象徴的な像として想定し、その人物が自社の商品・サービスを購入、利用に至る経緯をロールプレイング的にシミュレートするものです。この手法は、想定された属性に対しどのような接点(タッチポイント)があり、それらがどのような態度変容を促していくのか、をイメージする際に有効です。
BtoCの場合は、タッチポイントにおける態度変容の因子(何がきっかけとなって購入を決めるか、あるいはやめて離脱するか)が必ずしも合理的(競合より優れている、競合より低コスト、自分のニーズに適合する、など)なものではなく、「なんとなく気に入った」「色やデザインが好み」という情緒的な理由も無視できないとされています。近年では「買いたい気持ち」が瞬間的にMAXになる「パルス型消費」という行動も示唆されています。
図の出典:データから見えた「パルス型」消費行動——瞬間的な購買行動が増えている:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(2)- Think with Google
逆に企業間取引であるBtoBでは、消費態度の変容は理性的で合理的な意思決定フローに基づくと言われていますが、実際にはBtoCと同じように担当者の感覚的・情緒的側面も少なからず影響します。
いずれの場合でも、自社が向き合うべき「お客さま」はどのような人々なのか、リサーチや検証、ネットのアクセス解析などを行って、確実に把握することが基本となります。
意識すべきは「お客さま」だけとは限らない
企業を取り巻く様々なステークホルダー
さて、企業のステークホルダーは必ずしも顧客だけではありません。例えば協業先を探している企業、製造を請け負ってくれるメーカーや、パッケージを製作してくれる企業、営業を代行してくれる販売代理店など、川上・川下における取引先を、企業は常に必要としています。
また、卒業後に進みたい業界について調べたり、自分の意向にマッチする会社を探す学生や求職者も、企業を検索するユーザーの重要な一群です。地元の優良企業を調べたり、働き方・理念・組織体制などを探求する目的で検索するユーザーは、企業名ではなく地域名や事例、ワークスタイルに関するキーワードを用いて、ニーズに合致する企業を見つけようとします。工場や本社などが誘致された地域社会の人々はその会社がどんな企業なのか気になるでしょうし、環境問題や持続可能性社会に関心のある層、株式市況をウォッチする人々もいます。これらの人々は、その属性に応じて異なる角度、キーワードで御社のwebサイトに流入してきます。
ステークホルダーに対応したサイトを設計する
ネットのリソースに余裕がある場合は、属性ごとの目的に合わせてそれぞれに特化した、以下のようなサイトやコンテンツが設けられます。
・商品やサービスの販売に直決するサイト、ランディングページ
・ネットを通じて販売が完結するECサイト
・リクルートに特化したコンテンツを掲載する採用サイト
・社会貢献に関する情報を提供するCSR、SDGsに特化したサイト
・株主、投資家に向けて財務情報やニュースリリースを公開するIRサイト
これらはちょうど、企業の組織において営業部や人事部、総務部、広報あるいは財務・法務のセクションのように、役割分担がなされているのと似ています。大きな組織では実際のサイト運営についても、それぞれの部署ごとで担当している場合があります。
しかし多岐にわたるニーズに対応しようとすると、ページ数が増え規模の大きなサイト設計になってしまいます。web制作と運営をチーム態勢で組織的に行える企業なら可能ですが、中小企業ではなかなかそうもいきません。
多岐にわたるからこそ大切な「一貫性」と「整合性」
大事なのは理念背景の理解と共有
多様なステークホルダーに対応するwebサイトを構築する場合、最も注意すべきことは「各部門の部分最適が、必ずしも全体最適に結び付くとは限らない」という点です。
例えばECや店舗では顧客満足度を重視し、迅速な流通配送や低価格化を実現している企業があるとします。この企業がwebサイトのトップページで「持続可能な社会の実現」を掲げていたとすれば、その流通の迅速性は温室効果ガスの削減をどう担保しているのか、低価格化の負担は国内外の製造現場に不当にのしかかっていないか、などを表明することが求められます。それをせずにスローガンのみ時代に合わせるのは、むしろ逆効果です。
デジタルシフトが進みあらゆる情報が瞬時に、思わぬルートで拡散する現代では、コーポレートサイトでトップが語っているメッセージと現場の接客態度が乖離していたり、不祥事が明るみになったりする場合のダメージは計り知れないものがあります。それを防ぐためには、すべての部署、すべての従業員に対し「なぜ自社はこの事業を行うのか」「どんな社会を目指し、どんなビジョンを実現したいのか」という理念背景について、十分共有する必要があります。そしてあらゆるタッチポイントで、一貫性と整合性を図っていかねばなりません。Webサイトの制作に際しても、そうした基盤を共有したうえで、個別のコンテンツを整備していくことが大切になります。
コーポレート・ブランディングの視点で考える
実を言えば、これが「コーポレート・ブランディング」の考え方なのです。企業は社会の様々な場面に接点を持ち、コミュニケーションを図っています。核となる理念的背景を基軸に据え、一貫性と整合性をもってあらゆるタッチポイントでのメッセージを統合していく態度が重要なのです。
実際の組織運営に関しても、従来のような「営業部」「人事部」「総務部」「広報部」「情報システム部」といった壁の見直しを進める企業が増えています。例えばESG(環境・社会・統治)の概念はこれまでCSR(企業の社会的責任)の領域としてとらえられ、総務部や広報部の担当とされてきました。しかし昨今SDGsの認識が定着するに従い、より企業経営と直結するものとして、パーパス(その企業が存在する、そもそもの意義)と関係する文脈で語られるようになり、経営トップ直結の経営企画部や、全社横断型プロジェクトの形で取り組むようになっています。
御社のサイトがステークホルダーごとに構成されているのなら、それらを統合するメッセージを発するコーポレートサイトを持つことが望ましいでしょう。またボリュームが小さいサイトや、会社概要など基本的な情報のみに特化したサイトの場合も、あらゆるステークホルダーを想定して「私たちはこうした価値を提供していく」という、統一的で一貫した意思表示を行う態度が必要です。リソースが確保しにくいwebサイトも、工夫次第で様々なステークホルダーに対応したコンテンツ発信が可能となります。例えば、ブログを活用したコンテンツマーケティングです。ステークホルダーに応じたカテゴリーをブログに設置して、それぞれの興味・関心領域に刺さるキーワードを意識した記事を積み重ねつつ、アクセス分析を行って内容を充実させていくことで、webサイトに流入するユーザーの質的・量的改善が期待できます。
まとめ
この記事では、特にコーポレートサイトを構築するにあたって、「ユーザーの属性」という観点からステークホルダーを意識することの重要性について述べました。要約すると以下のような項目です。
・自社のwebサイトを訪れるユーザーがどんな人々なのか、十分意識して構成やコンテンツを作りこむことが大切です。
・中心的なステークホルダーは「お客さま」ですが、お客さまの中にも多様な属性があります。持っている情報を分析して、あらかじめ整理・把握しておきましょう。
・顧客以外にも、取引先、従業員、求職者、地域社会、株主、メディアなど多くのステークホルダーが存在します。それぞれにどのような認識を持ってもらいたいか、明確にすることが大切です。
・一貫性と整合性に注意し、ステークホルダーのニーズに的確に応えることのできるサイト構成を目指すことが肝要です。
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